スヌーチーブヌーチー

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ヘルメットをかぶりましょう。

 

中学生の頃、僕は自転車で通学していた。

校則で、自転車に乗る場合はヘルメット着用が義務づけられており、

このヘルメットがまためちゃくちゃダサいものだった。

ヘルメットにはデカデカと校章がデザインされており、みんなバカ真面目にヘルメットを被って自転車を漕いでいる。

「よう、あんなことやるなぁ。」

僕は、学校の近くになるとヘルメットを被り、先生に怒られないように校門を通り過ぎていく。

そんな毎日を過ごしていた。

 

 

ある日、駅に自転車を置いていると、ヘルメットを盗まれる事件が起きた。

僕としては落ち込むわけもなく、なんであんなダサいヘルメットをわざわざ持っていったのか。盗人のセンスを疑った。

それと同時にヘルメット地獄から解放された気がして、少し心が軽くなった。

盗られたのならばしょうがない!!うん!!ヘルメット、被りたかったけど、盗られたのなら被れないもんなぁ!!ああ、残念無念また来年!

 

 

次の日、僕は堂々とヘルメットを被らないで学校に行ったら門の前で野球部の監督に捕まってしまった。

耳たぶを引っ張られ、朝からめちゃくちゃ怒られて、その日の練習、僕はバッティングなし。

「ヘルメットパクられたんです!」

「嘘つけ!どっかに落ちとるわ!探さんかい!」

監督は一切聞く耳を持たない。

先生も、あんなダサいヘルメットを盗む奴なんかいるわけがないと思っていたのだろうか。

常日頃冗談しか言わなかったからか、いくら弁解しても言い訳と捉えられてしまい、ヘルメットを見つけるまで、バッティング練習が一切禁止になってしまった。

だが、そもそも部活をサボりたくてしょうがない僕としては、バッティング練習があろうがなかろうが死ぬほどどうでもよくて、それよりも朝から怒られることの方が耐えられなかった。

学校では常にハイテンションでいたいだろう。

 

 

ヘルメットは、駅のどこを探しても全く見当たらない。

家に帰り、母親に相談することにした。

すると、母親は、すぐに近所の知り合いから、知り合いの息子が使っていたという酷くボロボロの中学のヘルメットをもらって帰ってきた。

(うわ……これは……更にダサいぞ……。)

次の日から、僕はボロボロのヘルメットで登校した。もちろん、先生含めて皆からイジられた。

「なんやそれ?拾ったんけ?」

「ちゃうわ!もろたんじゃ!」

恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。

流石にその時ばかりは盗人を恨んだものだ。

ただ、恨んだ所でヘルメットが返ってくるわけもなく、その後も暫くボロボロのヘルメットで皆に笑われながら学校に通い続けた。

 

 

 

 

ある日、市内の部活動の春季大会ということで、僕たちは球場で試合をした。

その帰り道、僕たちはバットケースや重い荷物を抱えながら駅に向かって歩いていた。

すると、部活に入っていない地元のヤンキー達が30人ほど、駅までの通り道であるテニスコートのネットに腰掛けて、タバコを咥えながら、こっちを睨みつけていた。

先を歩く野球部の面々は、俯きながらその横を通り過ぎていく。

そうなのだ。

こういう時、まず、彼らと目を合わせてはいけない。

ヤンキーという生物は、絶対に目を合わせてはいけないものなのだ。

これは中学生の頃に雰囲気で学ぶ、暗黙のルールみたいなもので、ヤンキーというのは、なぜか、目があったら「あいつは俺にケンカを売っている」という思考に陥いる。

とんだ自惚れたヤロー共なのだ。

誰もお前らに興味などないというのに……。

 

 

僕は、遠目からそのグループに自分の中学校の友達がいないことを確認すると、例になく、横に歩く後輩と地面を見つめ、トボトボと歩き出した。

ヤンキー達はニヤニヤとタバコをふかしながらこちらを見ている。

僕は、必死に、目を合わせないように、地面を見ながらヤンキーの横を歩く。

歩く。歩く。

……歩く。

歩く。

ン長いな!!!

ヤンキー30人が縦に並ぶと列が長いな!!

綺麗に並ぶんじゃねぇよ!お前らキャンディタウンか!!

(※キャンディタウン……東京発の16人のラップグループ)

後輩が言った。

「たいちゃん、見たらあかんで、絶対に、見たらあかんで。」

やめてよ……。そう言われると……見たい……めっちゃ気になる……見たいよ……ヤンキー。めっちゃ見たくなるよ。見たいよ。見るなって言うな。見たい。見たい…。見たい…。

僕の我慢の糸がゆっくりと千切れていく。

その時だった。

「ウラァ!!!!」

ヤンキーの誰かが大声を上げた。

その瞬間!僕の我慢の糸はプッツンと切れた!ハイ!来ましたー!!と言わんばかりにヤンキーの列を舐め回すように見つめた。

すぐにヤンキーと目が合う。

 

ヤンキーの怒号のウェーブが起きた。

手前から奥まで順番にヤンキーが叫んでいく。

何みとんじゃワリャアアアアア!!!!

何みとんじゃワリャアアアアア!!!!!

な!な!な!な!な!ワリャアアアアア!!!ワリャアアアアア!!!ワリャアアアアア!!!

ワリャアアアアア!!!

横にいた後輩を見ると、顔を真っ青にして、アホ!と言わんばかりの表情で唇をガタガタ震えさせて今にも泣きそうではないか。

その時に、あ、やべぇことをした、と思った。

ごめん、キクちゃん、見てしもたわ。

 

だが時すでに3日前のお寿司。つまり、遅し。

咄嗟に目を逸らすも、ヤンキーは僕たちをターゲットに絞っている。

30人が、僕たちの後ろをゾロゾロと歩いてきた。

「オイコラ兄ちゃん!!止まりや!!」

「オイ!!無視すんなや!!」

「ワレ!!ちょい待てや!!」

僕たちの後ろで、数多の叫び声が飛び交っている。

うわー、やべー……。

声は、段々と近づいてくる。

最終的に、誰かが僕の肩を叩いた。ビクッとして振り返ると、眉毛のない汚い金髪のヤンキーがニンマリと不気味な笑みをこちらに向けた。

「逃げんのは良くないやろ。兄ちゃん。」

変に落ち着いていて、それが余計に気持ち悪かった。

うむ。確かにヤンキー、君の言う通りだ。

逃げるのは良くない。逃げると言う行為は、確かにヨロシクはないだろう。

それは君の言う通りだ。

 

だが!!今、駅に向かってるだけですし!!家に帰ってるのをあなた方が勝手に追いかけてきただけでしょうが!!

そんなことを言う勇気など勿論あるわけもなく、僕は泣く泣く立ち止まった。

僕の肩を叩いた奴が、どうやらこの大津市中学ヤンキー連合のテッペンを張っている奴だったようだ。

テッペンを筆頭に、ヤンキー全員の顔が見えるように、これまた綺麗に整列されていた。

 

※イメージのキャンディータウンです。

 

怖かったが、怖い時ほどなぜ彼らは綺麗に整列したのか、頭が一杯になってしまい、やけに面白く感じられて、僕はビビリながら必死に笑いを堪えなければならなくなった。地獄だ。

テッペンは、僕に問いかける。

「お前、どこ中??」

怖気付きながら、答える。

「真野中。」

テッペン、睨み続ける。

「真野か。アイツ知ってるけ?」

悪友の名前だった。

「知ってる。よく遊ぶ。」

テッペン、いきなり優しくなる。

「なんや、そうやったんか。止めてすまんな。行ってええで。」

(え!?いいの!?もう終わり!?)

 

随分あっさりと僕は解放されてしまった。

あれ!?リンチは!?カツアゲは!?

はい。これでもう終わりなのだ。

 

あいつらは、僕がどこ中なのか、誰の友達なのか、それを確認する為だけにここまで30人で歩いて来たことになる。

めっちゃアホや……。

みんな、背中を向けてまたさっきの居場所へと戻っていく。

殴られたくなかったけど、不本意というか、腰砕けというか、なんといえばいいのか…。

 

 

最後に残された1人が、僕にメンチを切って来た。

恐らく、彼はアホの子だ。アホすぎて、なぜ皆が帰るのか、事態をイマイチ理解できていないが、皆が帰るのでなんとなくそれに合わせて帰ろうとするけども、とりあえず一度だけオラオラしたかったのだろう。

そいつはやけにレインボーな原付のヘルメットを被っていて、それがまたそいつの脳内お花畑具合を見事に表していた。

無視した。僕でも分かる。こいつは多勢でしかヤイヤイできないやつだ。

暫く無視が続くと、さすがに面白くなくなったのか、そいつは僕の足の近くにツバを吐いてクルッと背を向けて行ってしまった。

 

ヤンキーが背を向けると同時に、レインボーヘルメットの後方部分が露わになった。

 

 

 

あれ、あの校章………

 

 

 

いやそれ僕のヘルメット!!!!

 

 

それ僕のダサいヘルメットー!!!!

 

 

犯人お前かー!!!!

 

 

勝手にデコレーションして愛用すなー!!!!

 

 

 

僕のヘルメットは、地元の弱小ヤンキーに前後逆に被られて、それはそれは大事に扱われていたのだった。

人間は便意の奴隷である。

僕は、胃腸が弱い。

辛いものを食べたり、度数の強いお酒を飲んだり、お腹を出して寝てしまったり、そんなことをすれば確実に翌日はお腹が大変なことになる。

本当に腹が痛い時、人は、冷静ではいられない。

便意の前に、人は無力なのだ。

以下、とても汚い話です。

 

 

 

小学校二年生の時、給食を食べ終え、校庭でサッカーをしていると、突然猛烈な腹痛が僕を襲った。

飯を食った後に運動すると横腹が痛くなることはそれまであったが、今回のケースはそれとは違った。

明らかにそいつは便意「第一波」だったのだ。

うんぉううううあああああ!!!

僕はお腹を抱えてその場にうずくまる。周りの友達が僕を心配して近づいた。胃腸が音を立てて僕に信号を送る。

はうぅうううわああああ!!!

少しでも気を緩めようものならば、明らかに不完全なペースト状のあいつがお尻から噴出されそうになる。このままではやばい。必死に、必死に耐え続けた。

いやいや、トイレ行けよって話だけども、小学生にとって、学校のトイレでウンコをするという行為は自殺同然である。

ウンコをしただけで学校中で犯罪者扱いされるのだ。学校が大騒ぎになる。

そんな不名誉な称号を得るくらいならば、ウンコを我慢した方がいいに決まっているのだ。

僕は必死にウンコを我慢することを選択した。

それに、今までの僕は、誰かがウンコをしていると、喜んでそれを皆に報告している立場でもあった。

「あいつ、ウンコしとるぞ!皆でトイレに観に行こうや!」

今思うと、何が楽しくて他人のウンコを見なければならないのだ。

わからない。本当にわからない。

そうやって今まで騒いできた経緯があった為、僕には、学校のトイレでウンコをする権利などなかった。

もし、ここでウンコをしてしまったら、僕は、一生笑われてしまう……

ギュルルルルルルル!!!!!

はぅわああああああああ!!!

波が僕を襲う。

こ、こ、この波を抑えるためには、とにかく刺激を与えないことが大切だ!

そう思った僕は突如サッカーを抜け出し、校舎の木陰に移動して寝転んだ。

別のことで気を紛らわし、この腹痛の波が収まることを期待しようと思ったのだ。

僕は必死に何か自分に語りかける話題を探した。

そして、その時にハマっていたデジモンというたまごっちの様な育成ゲームのことを思い出した。

当時、僕はスカルグレイモンというなかなか強いデジモンを育てていた。あだ名はスカちゃん。安直過ぎるネーミングセンス。

そのスカちゃんは、僕が学校に行っている間はおかんが世話をしてくれている。

そうだ、帰ったら僕にはスカちゃんが待っている、だから、スカちゃんのことだけを考えて、何とかそれまでこの腹痛を耐え抜くんだ。

僕は必死にスカちゃんと触れ合う自分の姿を想像した。

そうすることで自らを励まし、勇気付け、便意の呪縛から解き放たれることを試みたのだ。

 

 

この作戦は功を奏した。

腹痛が次第に弱まっていったのだ。ああ、よかった…。本当によかった…。

僕は安堵した。

そして、スカちゃんのことをまた考えた。

スカちゃんは、食いしん坊だ。おかん、スカちゃんにエサちゃんとあげてるかな…?

あと、スカちゃん、病弱なんだよな。おかん、スカちゃんのウンコ、ちゃんと流してるかな…。

ん………ウンコ?

その瞬間、また、僕の中で眠りつつあった便意が音を立てて騒ぎ始めた!!

第二波!!!

はぅわぁああああああああ!!!

僕の脳内にまた便意がカムバックしてしまった!!

眠りつつあった便意を、また開眼させてしまった。

僕は木陰で一人、腹を抱えながら悶え苦しむ。誰にもバレない様に、ひたすら腹をさすって痛みが去ることを願った。

第二波が無事収まる頃には昼休みも終わりかけていた。

 

 

 

その日は4時間目で授業が終わりだったので、僕は必死によろけながら教室に戻り、帰りの会を迎えた。早く終われ、帰らせろ…ただ、そう願った…。

だが、こういう時に限って、優等生が先生に続々と告発を始めるのだ。

「先生、今日、AくんがBくんが嫌がってるのに虐めてはりました。」

「先生、今日、Cくんがずっと自分の腕舐めてはりました。」

「先生、今日Dくんが…」

もうやめてくれええええええ!!!!

早く帰らせてくれええええええ!!!!

僕は必死に腹をさする。頑張れ、俺、頑張れ、俺!!耐えろ、俺ぇえええ!!!

必死に告発を続ける優等生。

先生はそれを聞いて「そらあきまへんな」の繰り返し。

この意味のないやりとりはなんなんだ!!勘弁してくれ!!!

僕は優等生を必死に睨んだ。いや、もはや、睨む力すらなくて、懇願する様な、情けない表情でその子のことを見続けていた。

 

 

 

 

「先生、さようなら、みなさん、さようなら!」

間に合った…。よし、後はおうちにダッシュで帰るだけだ!そして、家のトイレでウンコをしよう!家のトイレはウォシュレットがあるから最高なんだよな!

僕は急いで下駄箱に向かい、上履きを脱ぎ捨てると、スニーカーを履いた。

だが立ち上がった瞬間、第三波が僕を襲った!!!

それと同時に、僕のお腹は、とてもつもない大きさの轟音を響かせたのだ。

グォウルキュルルルルルラガァワアアアアウンコデタガッテルヨォオオオ!!!!

その時にすれ違った女の子が「ギャ!??」とビックリして辺りを見回した姿が頭から離れない。何かのエンジン音だとでも思ったのだろうか。僕は自分の腹が鳴る音で人を驚かしたのだった。

だが、そんなことはその瞬間死ぬほどどうでもいい。僕の頭の中はウンコで一杯であり、一刻も争う事態なのだ。

僕は急いで学校を飛び出した。家までの距離はおおよさ1キロ!それまで持ってくれ!僕の肛門よ!!!

僕はケツの穴を引き締めて、走り出した。

道中、何度も挫けそうになった。便意は回数を重ねるにつれて強さを増していき、ふと気を抜いたらそのまま失神してしまいそうになった。

それでも、あの時の僕は強かった。

泣きそうになりながら、僕は、自宅の前まで辿り着いた。

ゴールはすぐそこだ。

長かった、本当に、長かった。

僕は扉の前まで来た。

ここを開ければすぐそこだ。

扉を思いっきり引っ張った。

……!??

開かない!?えっ!?なんで!?ママ!?ママ!??メメー!!!!

ハッ!!!

僕は朝、おかんが言っていたことを思い出した。

「今日、ばあちゃん家行くから、家の鍵持って行きや」

そうだった!母親不在!あはは!あぶねー!!そうだった!!鍵開けないとな!鍵、鍵、鍵……

カバンを漁った。

……!?

鍵が………ない……!??

僕は絶望し、膝から崩れ落ちた。

なぜ、なぜ、なぜなんだぁあああああ!!!ない!?ない!?ない!!!

この木の板一枚の向こう側には、僕を待つ便器があるというのに!!

それにここは僕のお家でしょう!?

なぜ、どうして!?どうして入れてくれないんだぁ!?なんでそんな意地悪をするんですかぁああああ!!!!

僕は錯乱状態だった。家に誰もいないのに家の扉をガンガン叩いた。実はおかん、寝てるんじゃないのか!?実は、隠れてるんでしょう!?うわあああああ!!!バンバンバン!!

ギュルルルルルルルルルァアア!!!

はぁああああああ!!!!もうムリ!!!まじでムリ!!!マジでヤバいから!!!

僕は脂汗を拭う力すらなかった。扉の前にへたれこみ、肩で息をしながら、意識が薄れていくのを感じた。

その時、消えゆく意識の中で、僕の脳内で、ある会話の記憶が浮かび上がってきた。

それは、母親と父親が以前していた会話だった。

「最近、野良猫が増えてるんやって」

「困ったなぁ。」

その瞬間に僕の視界がパッと開けた。青天の霹靂。ピースとピースが合致した。そうだ!その手があるじゃないか!!

他愛もない会話が、時に人の人生をも救ってしまうこともあるのだ!!

そう、何気ない会話によって、数学者も真っ青になるほどのある方程式が僕の脳内で完成したのだ。


それは、

①まず、僕は家の庭で野糞をする。

②そして、その野糞を野良猫のせいにする。

以上。

 

我ながら完璧だった。当時8歳にして、自分が天才だと思った。

冷静に物事など判断出来やしなかった。

僕は、家を回り込み、自宅の庭に行くとズボンを下ろし、そのまま野糞をした。

汚い話ですが、予想に反して、めちゃくちゃ大きなバナナが数本、野に放たれた。

僕はその様を見て、少し冷静になった後、そのバナナを見て、猫のクソにしてはやけにでかすぎやしないかと思った。

だが、もう、出してしまったものは仕方がない。僕は雑草でケツを拭い、そして、自分が出したバナナに、まるで猫の仕業に見せるように、少し砂をかけて、黙って、その場から立ち去った。

だが、野糞をしたことに対する罪悪感は半端なものではなく、その日の夜、僕は何度も家の庭に出ては、懐中電灯でバナナが無くなっていないか、確認した。

バナナは堂々と、「心配すんな、俺はここにいるぞ。」と言わんばかりに、それはそれは見事過ぎるいで立ちで、庭に鎮座していた。

いっそのことなかったことにしたかった。だが、無くなるわけもなく、それに、無くなっていたら無くなっていたで困る。うーん、ジレンマ…。

結局、その日はバナナのことで頭一杯で上手く眠ることもできなかった。

 

 

 

 

次の日、朝起きると、僕は確認のために一目散に庭に出た。

そして、僕は思いがけない出来事を前に固まった。

バナナが、無くなっている…!?

だ、誰かが僕のブツを、持って行った!?

僕は、非常に焦った。誰かがバナナを持ち去ってしまったのだ。

なんで!?なんの為に!?僕は必死にバナナがどこへいったのか考えた。

考えすぎると余計に訳が分からなくなってきて、

そもそも、僕が野糞をしたという行為は幻ではないのか…?!

あれは、もしかすると、夢だったのかもしれない…!そうだ!悪い夢だったんだ!!!

という、まさかのめちゃくちゃな結論で自らを納得させた。そうだ、あれは夢だ!僕は庭で野糞なんかしていない!していないんだ!!

そう思い込むと、家に戻り、僕は昨日の罪悪感はどこへやら、堂々と家の中を歩きながらリビングに向かった。

その時に、僕を見つけた母親が大声で叫んだ。

「あんた!なんで昨日庭でウンコしたん!」

「えっ…。」

姉ちゃんが食べかけのトーストを口から落とした。

やっぱりな。ウンコ、幻じゃないよな。

「いや、あれは、野良猫が…」

「あんなデッカイウンコ、野良猫がするわけないやろ!!!」

やっぱりな、あんなデケーウンコ、野良猫がするわけないよな。

僕はひたすら謝った。

唯一の救いは、家族にとって、それは面白エピソードとして記憶に残っているということだ。

だが、その時は誰も知る由もなかっただろう。

 

 

 

 

数ヶ月後、僕はまた全く同じシチュエーションで野糞をしてしまうという事実を………。

平日昼間が無職にもたらす精神影響についての考察

 

月曜日の昼間の住宅街は、静かすぎる。

 

散歩なんかしてみると、本当に驚く。

 

僕の近所は、じいさんばあさんしかいないのだ。

 

近くの理容室なんかを通ると、パイプ椅子に座ったおじいさんが咳き込みながらパーラメントをずっと吸っている。朝から晩まで。ずっとそこにいる。ただぼーっと街を見ている。

 

おじいさんの横には理容室に必ずある、あの、赤と青と白のぐるぐる回るやつが置いてあって、白はもはや黄色に変色しつつある。

 

そう、ルーマニアである。

 

ルーマニアの機械のイカレ気味のモーターの音と、おじいさんの咳き込む音が聞こえる。

 

僕は考える。きっとおじいさんは、実は生き別れたルーマニア人の両親がいて、その迎えを待ち、あのグルグルでそのシグナルというか、暗号を送っていて、その迎えを待ちながら横でパーラメントを吸い続けているのだろう、なんて。

 

じゃないともうあれが何なのかわけがわからないのだ。

 

死ぬまであれをやるのだとしたら、そんなの拷問じゃないか。わけがわからない。

 

 

 

 

 

それから道路を少し歩くとドラッグストアが見えてくる。

 

デェム!こういう時に限って保育園の子供のお迎えの時間と合流してしまうのだ。

 

ドラッグストアで僕はダンボールをもらう予定だった。

だけど、こんな昼間にこんな風貌のわたくしが歩いているものですから、そりゃもう当然人々はわたくしを警戒します。

 

母親は遠くを走り回る自分の子をいきなり自らの足元に呼び、静かに僕が通過するのを待つ。

 

僕は少し早歩きをする。

 

もし、国民に今の気持ちを表すプラカードが用意されているとしたら、僕は絶対に「私には殺意はありませんし、犯罪を起こす気持ちもありません。」と書いてお母様方に見えるように、胸の前とかにそれを持つと思う。

 

現実ではそんなものはあるはずもないんすけども。

 

通り過ぎるや否やのタイミングで、ほっと息を吐く音がするような気がして、僕もそれを聞いてほっと息をつく。

 

そりゃあ確かに、そうなるよな。

 

 

 

 

ドラッグストアは入れなくてダメだったので、坂の下にある、近くのスーパーに行くことにした。あそこなら、きっと大量のダンボールがあるはずだ。

 

途中、道端に、たくさんの材木を積んだトラックが止まっていた。

 

僕がその横を通り過ぎると、向こう側から作業着を着たおじいさんが足早に歩いてきた。

 

随分と早歩きだなと思っていると、おじいさんは僕の目の前で止まり、僕に話しかけた。

 

「あなた、運転手ですよね?」

 

いや、ちげーよ!!!

 

パーカーにコーチジャケットを着て、スウェットパンツを履き、スリッポンを履いていたからだろうか。

 

僕は作業員だと間違えられたようだ。

 

 

「いいえ、違います。僕はダンボールを探しているんです。」

 

この回答もこの回答で、なんかかなり会話噛み合ってなくないか、わたくしよ、と、僕は思った。

 

おじさんは笑いながら「ゴメンナサイ」と言って去っていった。

 

それから僕は、よくやりがちな、会話が終わった後に自分の会話を反省する状態に陥ってしまった。

 

坂道を下る間、必死に全てを反省していた。

 

あの場合、いいえ、違います。だけでよかったんすよ。要は。余計なこと言わんでよかった。

 

僕は本当に言いたいことも言えないポイズン野郎で、本当に自分が言いたかったことは何なのか、いつも数日経ってから気付くことが多い。下手したら数年経ってから気づく。

 

中学生の頃、社会科の時間に先生に、

 

「小林よ、日本は資本主義か?」

 

と、聞かれたことがあった。僕は、

 

「いいえ、日本は社会主義です。」

 

と生真面目に答えたことがあり、先生にバカにされて恥ずかしくなって、

 

「でも!僕の家は!僕の家は社会主義なんです!!!」

 

とわけのわからない言い訳をしたことがあった。非を認めたくなかった末に根も葉もないことを言ってしまったのを未だに反省している。

 

クラスの好きな女の子がクスリと笑ってくれたから、よかったのだけど。

 

 

 

なんて思っていると、近くの道から子供達の叫び声。おお、保育園。

 

実のところ、僕は、子供が好きだ。大学生の頃、子供とキャンプに行くバイトをして、全員とマブなダチになることができた。

 

子供はすごい。彼らには生きることに対する恐れがない。これから色んなことを知っていくのだろうけど、あの、自由な感じは忘れたくないな、と思う。

 

保育園の前を、後にする。

 

園児たちはギャーギャー叫んでいた。混じりたいけど、混じったら、事件に発展するので、見過ごした。

 

 

 

 

 

そんなこんなで住宅街を抜けますと、老人に混じって、たまに若い女の子がちらほら目につくようになった。

 

うーん、安物の香水の匂い、悪くないねぇ……。

 

ただ、一つ気になるのは、道を行き交う女の子の大体は、なぜか、カバンを2つ持って歩いているということ。

 

あら、あの子、カバンからガラケーを取り出したわよ。

 

どこに電話をかけるのだろうか。

 

僕は、しばし考えた。

 

彼女たちの共通点として、皆、どこかのアパートの前に着くと、立ち止まり、電話をかけていることが挙げられる。

 

大体が、なぜかガラケー

 

イマドキの女の子とガラパコスな携帯。

 

つまり、まぁ、おそらくは、ああ、なるほど、そういうことかってことなんですよね。

 

勘のいい男性諸君なら分かるだろう。

 

多分、そういうこと。

 

出会って4秒で……。

 

昼間っからこの街は………。

 

こんの街は……

 

もう!!!こんの街はぁあああ!!!うわー!!!

 

 

 

 

 

 

それで、僕は近くの店々でダンボールを頂き、高校の学園祭の準備ぶりくらいに大量のダンボールを運ぶことになった。

 

必死にダンボールを抱えて、坂道を登る。腕に徐々に乳酸が溜まっていく感覚。ああっ、この感じ、嫌いじゃないねぇ!!久しぶりの感覚!!嫌いじゃないねぇ!!すれ違う人々の訝しげな視線も!!嫌いじゃないねぇ!!

 

坂を登り終えて、達成感に浸り、家の近くでタバコなんかをふかしていると、あら、こんな街にはそぐわぬ若くてイマドキの女の子。

 

どこに行くのかなと思い見ておりますと、

 

あれ、あの女の子の手元には……

 

カバンが2個!!!

 

そして!!ああ!!カバンから取り出したのは………

 

ガラケー!!

 

携帯も2個!!!

 

それを見ている僕もニコニコ!!!

 

そ、それに!!女の子が向かっている方角は…!!!

 

 

 

 

 

 

 

理容室の方面ッッッ………!!

 

 

も、もしや!??

 

理容室のジジイ………??

 

理容室のジジイ、もしかして、デリヘルを呼んでみるけど、家の中では緊張してじっと落ち着いていられないタイプ?!

 

それで、どんな嬢が来るのか待ちきれず外で待機してるタイプ?!

 

外で待機してるけど、その待ち時間が既に緊張するから、別にそんなに吸いたくないのにタバコとか吸ってしまうタイプ?!

 

そういうことだったのか!!!

 

ということは、ジジイはいつも店の前に立っているわけではなくて、デリヘルを呼んで外で待っているところを僕がたまたまタイミングよくいつも通っていた、ということ!??

 

だから、ジジイは咳き込みながらパーラメントを吸っていたということなのか!!!

 

ジジイー!!!お前なにやっとんねん!!!ジジイ!!!

 

と、いうことは、あのジジイが呼んでる女の子って………

 

 

 

 

 

 

 

ルーマニア専門ヘルス……!!!!

 

ああっ!!

 

あのクルクルは!!

 

あのクルクルは!!おじいさんが発信してる生き別れた両親への暗号じゃない!!

 

あれは、ただ、ジジイが性癖を発信してるだけだったのか!!

 

 

ジジイ!!!ジジイー!!!

 

 

こうぜんわいせつ~!!!

 

 

 

 

 

 

こうして、僕は、また一つ、この街の真理に気付いてしまったのだった……

 

 

 

 

 

平日昼間が無職にもたらす精神影響について、不安定な時間も愛せば何とかなることがわかりつつある。

 

まずは寝起きにたらふく吸い込み、そして限られた自由を感じて、楽しむ。そうすれば全てが楽しくなる。表裏一体で危機感もある。やりきれない気持ちもある。

 

でも、最後にはポジティブが勝つ。

 

とかく、今のところは、このようにして毎日のヒマを過ごしている。