スヌーチーブヌーチー

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平日昼間が無職にもたらす精神影響についての考察

 

月曜日の昼間の住宅街は、静かすぎる。

 

散歩なんかしてみると、本当に驚く。

 

僕の近所は、じいさんばあさんしかいないのだ。

 

近くの理容室なんかを通ると、パイプ椅子に座ったおじいさんが咳き込みながらパーラメントをずっと吸っている。朝から晩まで。ずっとそこにいる。ただぼーっと街を見ている。

 

おじいさんの横には理容室に必ずある、あの、赤と青と白のぐるぐる回るやつが置いてあって、白はもはや黄色に変色しつつある。

 

そう、ルーマニアである。

 

ルーマニアの機械のイカレ気味のモーターの音と、おじいさんの咳き込む音が聞こえる。

 

僕は考える。きっとおじいさんは、実は生き別れたルーマニア人の両親がいて、その迎えを待ち、あのグルグルでそのシグナルというか、暗号を送っていて、その迎えを待ちながら横でパーラメントを吸い続けているのだろう、なんて。

 

じゃないともうあれが何なのかわけがわからないのだ。

 

死ぬまであれをやるのだとしたら、そんなの拷問じゃないか。わけがわからない。

 

 

 

 

 

それから道路を少し歩くとドラッグストアが見えてくる。

 

デェム!こういう時に限って保育園の子供のお迎えの時間と合流してしまうのだ。

 

ドラッグストアで僕はダンボールをもらう予定だった。

だけど、こんな昼間にこんな風貌のわたくしが歩いているものですから、そりゃもう当然人々はわたくしを警戒します。

 

母親は遠くを走り回る自分の子をいきなり自らの足元に呼び、静かに僕が通過するのを待つ。

 

僕は少し早歩きをする。

 

もし、国民に今の気持ちを表すプラカードが用意されているとしたら、僕は絶対に「私には殺意はありませんし、犯罪を起こす気持ちもありません。」と書いてお母様方に見えるように、胸の前とかにそれを持つと思う。

 

現実ではそんなものはあるはずもないんすけども。

 

通り過ぎるや否やのタイミングで、ほっと息を吐く音がするような気がして、僕もそれを聞いてほっと息をつく。

 

そりゃあ確かに、そうなるよな。

 

 

 

 

ドラッグストアは入れなくてダメだったので、坂の下にある、近くのスーパーに行くことにした。あそこなら、きっと大量のダンボールがあるはずだ。

 

途中、道端に、たくさんの材木を積んだトラックが止まっていた。

 

僕がその横を通り過ぎると、向こう側から作業着を着たおじいさんが足早に歩いてきた。

 

随分と早歩きだなと思っていると、おじいさんは僕の目の前で止まり、僕に話しかけた。

 

「あなた、運転手ですよね?」

 

いや、ちげーよ!!!

 

パーカーにコーチジャケットを着て、スウェットパンツを履き、スリッポンを履いていたからだろうか。

 

僕は作業員だと間違えられたようだ。

 

 

「いいえ、違います。僕はダンボールを探しているんです。」

 

この回答もこの回答で、なんかかなり会話噛み合ってなくないか、わたくしよ、と、僕は思った。

 

おじさんは笑いながら「ゴメンナサイ」と言って去っていった。

 

それから僕は、よくやりがちな、会話が終わった後に自分の会話を反省する状態に陥ってしまった。

 

坂道を下る間、必死に全てを反省していた。

 

あの場合、いいえ、違います。だけでよかったんすよ。要は。余計なこと言わんでよかった。

 

僕は本当に言いたいことも言えないポイズン野郎で、本当に自分が言いたかったことは何なのか、いつも数日経ってから気付くことが多い。下手したら数年経ってから気づく。

 

中学生の頃、社会科の時間に先生に、

 

「小林よ、日本は資本主義か?」

 

と、聞かれたことがあった。僕は、

 

「いいえ、日本は社会主義です。」

 

と生真面目に答えたことがあり、先生にバカにされて恥ずかしくなって、

 

「でも!僕の家は!僕の家は社会主義なんです!!!」

 

とわけのわからない言い訳をしたことがあった。非を認めたくなかった末に根も葉もないことを言ってしまったのを未だに反省している。

 

クラスの好きな女の子がクスリと笑ってくれたから、よかったのだけど。

 

 

 

なんて思っていると、近くの道から子供達の叫び声。おお、保育園。

 

実のところ、僕は、子供が好きだ。大学生の頃、子供とキャンプに行くバイトをして、全員とマブなダチになることができた。

 

子供はすごい。彼らには生きることに対する恐れがない。これから色んなことを知っていくのだろうけど、あの、自由な感じは忘れたくないな、と思う。

 

保育園の前を、後にする。

 

園児たちはギャーギャー叫んでいた。混じりたいけど、混じったら、事件に発展するので、見過ごした。

 

 

 

 

 

そんなこんなで住宅街を抜けますと、老人に混じって、たまに若い女の子がちらほら目につくようになった。

 

うーん、安物の香水の匂い、悪くないねぇ……。

 

ただ、一つ気になるのは、道を行き交う女の子の大体は、なぜか、カバンを2つ持って歩いているということ。

 

あら、あの子、カバンからガラケーを取り出したわよ。

 

どこに電話をかけるのだろうか。

 

僕は、しばし考えた。

 

彼女たちの共通点として、皆、どこかのアパートの前に着くと、立ち止まり、電話をかけていることが挙げられる。

 

大体が、なぜかガラケー

 

イマドキの女の子とガラパコスな携帯。

 

つまり、まぁ、おそらくは、ああ、なるほど、そういうことかってことなんですよね。

 

勘のいい男性諸君なら分かるだろう。

 

多分、そういうこと。

 

出会って4秒で……。

 

昼間っからこの街は………。

 

こんの街は……

 

もう!!!こんの街はぁあああ!!!うわー!!!

 

 

 

 

 

 

それで、僕は近くの店々でダンボールを頂き、高校の学園祭の準備ぶりくらいに大量のダンボールを運ぶことになった。

 

必死にダンボールを抱えて、坂道を登る。腕に徐々に乳酸が溜まっていく感覚。ああっ、この感じ、嫌いじゃないねぇ!!久しぶりの感覚!!嫌いじゃないねぇ!!すれ違う人々の訝しげな視線も!!嫌いじゃないねぇ!!

 

坂を登り終えて、達成感に浸り、家の近くでタバコなんかをふかしていると、あら、こんな街にはそぐわぬ若くてイマドキの女の子。

 

どこに行くのかなと思い見ておりますと、

 

あれ、あの女の子の手元には……

 

カバンが2個!!!

 

そして!!ああ!!カバンから取り出したのは………

 

ガラケー!!

 

携帯も2個!!!

 

それを見ている僕もニコニコ!!!

 

そ、それに!!女の子が向かっている方角は…!!!

 

 

 

 

 

 

 

理容室の方面ッッッ………!!

 

 

も、もしや!??

 

理容室のジジイ………??

 

理容室のジジイ、もしかして、デリヘルを呼んでみるけど、家の中では緊張してじっと落ち着いていられないタイプ?!

 

それで、どんな嬢が来るのか待ちきれず外で待機してるタイプ?!

 

外で待機してるけど、その待ち時間が既に緊張するから、別にそんなに吸いたくないのにタバコとか吸ってしまうタイプ?!

 

そういうことだったのか!!!

 

ということは、ジジイはいつも店の前に立っているわけではなくて、デリヘルを呼んで外で待っているところを僕がたまたまタイミングよくいつも通っていた、ということ!??

 

だから、ジジイは咳き込みながらパーラメントを吸っていたということなのか!!!

 

ジジイー!!!お前なにやっとんねん!!!ジジイ!!!

 

と、いうことは、あのジジイが呼んでる女の子って………

 

 

 

 

 

 

 

ルーマニア専門ヘルス……!!!!

 

ああっ!!

 

あのクルクルは!!

 

あのクルクルは!!おじいさんが発信してる生き別れた両親への暗号じゃない!!

 

あれは、ただ、ジジイが性癖を発信してるだけだったのか!!

 

 

ジジイ!!!ジジイー!!!

 

 

こうぜんわいせつ~!!!

 

 

 

 

 

 

こうして、僕は、また一つ、この街の真理に気付いてしまったのだった……

 

 

 

 

 

平日昼間が無職にもたらす精神影響について、不安定な時間も愛せば何とかなることがわかりつつある。

 

まずは寝起きにたらふく吸い込み、そして限られた自由を感じて、楽しむ。そうすれば全てが楽しくなる。表裏一体で危機感もある。やりきれない気持ちもある。

 

でも、最後にはポジティブが勝つ。

 

とかく、今のところは、このようにして毎日のヒマを過ごしている。