スヌーチーブヌーチー

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ヘルメットをかぶりましょう。

 

中学生の頃、僕は自転車で通学していた。

校則で、自転車に乗る場合はヘルメット着用が義務づけられており、

このヘルメットがまためちゃくちゃダサいものだった。

ヘルメットにはデカデカと校章がデザインされており、みんなバカ真面目にヘルメットを被って自転車を漕いでいる。

「よう、あんなことやるなぁ。」

僕は、学校の近くになるとヘルメットを被り、先生に怒られないように校門を通り過ぎていく。

そんな毎日を過ごしていた。

 

 

ある日、駅に自転車を置いていると、ヘルメットを盗まれる事件が起きた。

僕としては落ち込むわけもなく、なんであんなダサいヘルメットをわざわざ持っていったのか。盗人のセンスを疑った。

それと同時にヘルメット地獄から解放された気がして、少し心が軽くなった。

盗られたのならばしょうがない!!うん!!ヘルメット、被りたかったけど、盗られたのなら被れないもんなぁ!!ああ、残念無念また来年!

 

 

次の日、僕は堂々とヘルメットを被らないで学校に行ったら門の前で野球部の監督に捕まってしまった。

耳たぶを引っ張られ、朝からめちゃくちゃ怒られて、その日の練習、僕はバッティングなし。

「ヘルメットパクられたんです!」

「嘘つけ!どっかに落ちとるわ!探さんかい!」

監督は一切聞く耳を持たない。

先生も、あんなダサいヘルメットを盗む奴なんかいるわけがないと思っていたのだろうか。

常日頃冗談しか言わなかったからか、いくら弁解しても言い訳と捉えられてしまい、ヘルメットを見つけるまで、バッティング練習が一切禁止になってしまった。

だが、そもそも部活をサボりたくてしょうがない僕としては、バッティング練習があろうがなかろうが死ぬほどどうでもよくて、それよりも朝から怒られることの方が耐えられなかった。

学校では常にハイテンションでいたいだろう。

 

 

ヘルメットは、駅のどこを探しても全く見当たらない。

家に帰り、母親に相談することにした。

すると、母親は、すぐに近所の知り合いから、知り合いの息子が使っていたという酷くボロボロの中学のヘルメットをもらって帰ってきた。

(うわ……これは……更にダサいぞ……。)

次の日から、僕はボロボロのヘルメットで登校した。もちろん、先生含めて皆からイジられた。

「なんやそれ?拾ったんけ?」

「ちゃうわ!もろたんじゃ!」

恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。

流石にその時ばかりは盗人を恨んだものだ。

ただ、恨んだ所でヘルメットが返ってくるわけもなく、その後も暫くボロボロのヘルメットで皆に笑われながら学校に通い続けた。

 

 

 

 

ある日、市内の部活動の春季大会ということで、僕たちは球場で試合をした。

その帰り道、僕たちはバットケースや重い荷物を抱えながら駅に向かって歩いていた。

すると、部活に入っていない地元のヤンキー達が30人ほど、駅までの通り道であるテニスコートのネットに腰掛けて、タバコを咥えながら、こっちを睨みつけていた。

先を歩く野球部の面々は、俯きながらその横を通り過ぎていく。

そうなのだ。

こういう時、まず、彼らと目を合わせてはいけない。

ヤンキーという生物は、絶対に目を合わせてはいけないものなのだ。

これは中学生の頃に雰囲気で学ぶ、暗黙のルールみたいなもので、ヤンキーというのは、なぜか、目があったら「あいつは俺にケンカを売っている」という思考に陥いる。

とんだ自惚れたヤロー共なのだ。

誰もお前らに興味などないというのに……。

 

 

僕は、遠目からそのグループに自分の中学校の友達がいないことを確認すると、例になく、横に歩く後輩と地面を見つめ、トボトボと歩き出した。

ヤンキー達はニヤニヤとタバコをふかしながらこちらを見ている。

僕は、必死に、目を合わせないように、地面を見ながらヤンキーの横を歩く。

歩く。歩く。

……歩く。

歩く。

ン長いな!!!

ヤンキー30人が縦に並ぶと列が長いな!!

綺麗に並ぶんじゃねぇよ!お前らキャンディタウンか!!

(※キャンディタウン……東京発の16人のラップグループ)

後輩が言った。

「たいちゃん、見たらあかんで、絶対に、見たらあかんで。」

やめてよ……。そう言われると……見たい……めっちゃ気になる……見たいよ……ヤンキー。めっちゃ見たくなるよ。見たいよ。見るなって言うな。見たい。見たい…。見たい…。

僕の我慢の糸がゆっくりと千切れていく。

その時だった。

「ウラァ!!!!」

ヤンキーの誰かが大声を上げた。

その瞬間!僕の我慢の糸はプッツンと切れた!ハイ!来ましたー!!と言わんばかりにヤンキーの列を舐め回すように見つめた。

すぐにヤンキーと目が合う。

 

ヤンキーの怒号のウェーブが起きた。

手前から奥まで順番にヤンキーが叫んでいく。

何みとんじゃワリャアアアアア!!!!

何みとんじゃワリャアアアアア!!!!!

な!な!な!な!な!ワリャアアアアア!!!ワリャアアアアア!!!ワリャアアアアア!!!

ワリャアアアアア!!!

横にいた後輩を見ると、顔を真っ青にして、アホ!と言わんばかりの表情で唇をガタガタ震えさせて今にも泣きそうではないか。

その時に、あ、やべぇことをした、と思った。

ごめん、キクちゃん、見てしもたわ。

 

だが時すでに3日前のお寿司。つまり、遅し。

咄嗟に目を逸らすも、ヤンキーは僕たちをターゲットに絞っている。

30人が、僕たちの後ろをゾロゾロと歩いてきた。

「オイコラ兄ちゃん!!止まりや!!」

「オイ!!無視すんなや!!」

「ワレ!!ちょい待てや!!」

僕たちの後ろで、数多の叫び声が飛び交っている。

うわー、やべー……。

声は、段々と近づいてくる。

最終的に、誰かが僕の肩を叩いた。ビクッとして振り返ると、眉毛のない汚い金髪のヤンキーがニンマリと不気味な笑みをこちらに向けた。

「逃げんのは良くないやろ。兄ちゃん。」

変に落ち着いていて、それが余計に気持ち悪かった。

うむ。確かにヤンキー、君の言う通りだ。

逃げるのは良くない。逃げると言う行為は、確かにヨロシクはないだろう。

それは君の言う通りだ。

 

だが!!今、駅に向かってるだけですし!!家に帰ってるのをあなた方が勝手に追いかけてきただけでしょうが!!

そんなことを言う勇気など勿論あるわけもなく、僕は泣く泣く立ち止まった。

僕の肩を叩いた奴が、どうやらこの大津市中学ヤンキー連合のテッペンを張っている奴だったようだ。

テッペンを筆頭に、ヤンキー全員の顔が見えるように、これまた綺麗に整列されていた。

 

※イメージのキャンディータウンです。

 

怖かったが、怖い時ほどなぜ彼らは綺麗に整列したのか、頭が一杯になってしまい、やけに面白く感じられて、僕はビビリながら必死に笑いを堪えなければならなくなった。地獄だ。

テッペンは、僕に問いかける。

「お前、どこ中??」

怖気付きながら、答える。

「真野中。」

テッペン、睨み続ける。

「真野か。アイツ知ってるけ?」

悪友の名前だった。

「知ってる。よく遊ぶ。」

テッペン、いきなり優しくなる。

「なんや、そうやったんか。止めてすまんな。行ってええで。」

(え!?いいの!?もう終わり!?)

 

随分あっさりと僕は解放されてしまった。

あれ!?リンチは!?カツアゲは!?

はい。これでもう終わりなのだ。

 

あいつらは、僕がどこ中なのか、誰の友達なのか、それを確認する為だけにここまで30人で歩いて来たことになる。

めっちゃアホや……。

みんな、背中を向けてまたさっきの居場所へと戻っていく。

殴られたくなかったけど、不本意というか、腰砕けというか、なんといえばいいのか…。

 

 

最後に残された1人が、僕にメンチを切って来た。

恐らく、彼はアホの子だ。アホすぎて、なぜ皆が帰るのか、事態をイマイチ理解できていないが、皆が帰るのでなんとなくそれに合わせて帰ろうとするけども、とりあえず一度だけオラオラしたかったのだろう。

そいつはやけにレインボーな原付のヘルメットを被っていて、それがまたそいつの脳内お花畑具合を見事に表していた。

無視した。僕でも分かる。こいつは多勢でしかヤイヤイできないやつだ。

暫く無視が続くと、さすがに面白くなくなったのか、そいつは僕の足の近くにツバを吐いてクルッと背を向けて行ってしまった。

 

ヤンキーが背を向けると同時に、レインボーヘルメットの後方部分が露わになった。

 

 

 

あれ、あの校章………

 

 

 

いやそれ僕のヘルメット!!!!

 

 

それ僕のダサいヘルメットー!!!!

 

 

犯人お前かー!!!!

 

 

勝手にデコレーションして愛用すなー!!!!

 

 

 

僕のヘルメットは、地元の弱小ヤンキーに前後逆に被られて、それはそれは大事に扱われていたのだった。